活動報告

第8回国際幹細胞学会に参加しました

2010年6月16日から19日の4日間にわたり、アメリカ・サンフランシスコで開催された第8回国際幹細胞学会(ISSCR;International Society for Stem Cell Research)に参加し、情報収集を行ってきました。

 この学会は、幹細胞に関する科学的な最先端研究発表をメインとしていますが、臨床応用に向けて研究が進んでいることから、幹細胞研究に関する政策、倫理、法律、社会学などの立場からの研究者も多く参加していました。
 DeCoCiSとしては、幹細胞研究の最先端動向を探りつつ、倫理や社会的問題に関する各国の政策や広報体制などについて発表を聞き、さらに関係者らへインタビューを行ってきました。
 今回の学会では、iPS細胞やES細胞の研究に限らず、幹細胞へ誘導する際の培養条件、胚の初期発生や体性幹細胞に関する研究などさまざまな研究成果が発表されました。
 また、科学的研究成果の発表以外に、社会問題や倫理問題、政策に関するシンポジウムやポスター発表も行われました。特に、今回話題に上がったのは国際的に問題となっている「幹細胞ツーリズム」についてです。
 「幹細胞ツーリズム」とは、患者が、規制のより弱い国へ渡航し、科学的根拠の薄い幹細胞治療を受けることです。現段階では、ES細胞やiPS 細胞は、基礎研究の段階であり治験や臨床応用へはほど遠い状態です。しかし、臨床応用を待てないアメリカやカナダなどの患者たちが、中国やウクライナ、コスタリカなどへ渡り、治験を経ていないある意味実験的な幹細胞治療を受けているのです。どういった幹細胞を使うのか、どの疾患を対象としているかは様々ですが、そのほとんどが高額で科学的根拠が乏しいものです。実際、その治療で病状が良くなったケースも報告されていますが、深刻な副作用が出ているケースも多くあります。
 こうした患者が急増している背景として、インターネットを介して中国などの病院のHPや患者のブログから安易に海外の情報を得られること、新聞やテレビが安易に幹細胞への期待をあおっていること、患者自身が十分な情報を得ないまま海外へ渡っていることなどが議論されました。これらの議論から、最先端研究者と、一般市民や患者の間で幹細胞に関する情報の格差や認識のずれが生じていることが明らかになりました。
 この情報格差に関連し、今回、私たちが行ったインタビュー調査によると、アメリカ、カナダ、イギリスなどでは、メディア以外に各国の幹細胞研究を統括する機関が患者や一般向けに、幹細胞に関する科学的な基本情報だけでなく、どのように医療と関わるかという医学的情報も合わせて掲載していることがわかりました。
 しかし日本では、幹細胞研究の基本的な情報や、再生医療との関わり等の医学的情報などを総合的に知る場が少ない状況です。DeCoCiSが目指す「市民と専門家の熟議」実現のためには、多くの市民が、幹細胞に関する科学的知識、再生医療についての基礎的情報や、論点を知る必要があります。研究者と市民が、共通の論点で議論するための土壌作りの必要性を感じました。
 また、DeCoCiS としては、熟議の場を通して、市民がどんな論点に関心があり、どんな情報を望んでいるのか、といったことをキャッチし、それを次の熟議の場につなげていくことが活動ポイントであると感じました。【了】

2010.07.16 15:05お知らせ, 活動報告