統合的?参加型?テクノロジーアセスメント?

 ここでは、統合的参加型テクノロジーアセスメントについて、「統合的」、「参加型」、「テクノロジーアセスメント」の3つに分けて、概要を説明します。

 「テクノロジーアセスメント」(Technology Assessment:TA)とは、新しい技術を社会に導入前に、社会的影響・安全性・経済性・倫理など、様々な観点から正・負の影響を総合的に評価することです。この評価をすることで、発生する可能性のある問題を予測したり、その予防や解決ために、開発の方向を修正したりすることが期待されています。

 「参加型」について説明します。従来、テクノロジーアセスメントは、関連する専門家によって行われていました。しかし科学技術が社会に浸透していく中で、価値観や政治と切り離せない問題が目立ち始めました。これらの問題は専門家だけでは判断できませし、専門分化が進む中で、専門家と市民、あるいは異分野の専門家での意思疎通や価値観の共有が難しくなり、特定の人に委ねてしまうと、衝突を生む原因にもなりかねません。同時に、科学が明らかにしてきた知識の限界が無視できない事例。科学技術や専門家に対する信頼を揺らがせる事例、市民が持つ知識の方が有効である事例も蓄積してきました。その中でテクノロジーアセスメントに、科学技術の影響を受ける市民も参加する動きが生まれました。これが「参加型」(Participatory Technology Assessment:pTA)です。

 最後に「統合的」について説明します。ここでいう「統合」は2つの意味はあります。
1つは「テクノロジーアセスメントの場」と「サイエンスカフェの場」の統合です。
従来「テクノロジーアセスメントの場」は、科学技術について熟議する場として機能してきました。その反面、多くの方に参加してもらうことが困難であり、また、非常に関心の高い市民が、相応の負担を強いることになりました。一方で「サイエンスカフェの場」はちょっと関心を持った市民が、気軽に議論に参加できる場として機能してきました。一方で、そこでの議論は単発的であり、せっかくの議論が政策決定の場や、研究者コミュニティに届かないままになっていました。私たちは、テクノロジーアセスメントを分散することで、より多くの人の参加を促し、多様な論点を集約できるように工夫しました。そして、それらの論点を整理し、更なる議論につなげます。このように分散した議論を共有、整理することで、社会全体で熟議を実現する。これが「分散性」という特徴です。キャラバンという名前は、議論が次の場所へ、次の場所へと展開する様子をイメージしたものです。
 そして、もう1つは「専門家の評価」と「市民の評価」の統合です。
 初期のテクノロジーアセスメントでは、専門家の評価が主でした。それに対し、その後の参加型テクノロジーアセスメントでは、反動からか、市民の評価が主となりました。しかし、本来取り組むべき問題に対処するには、専門家と非専門家の両方の視点から考えることが求められます(対称性)。対称性を実現するため、私たちは、まず様々な対象に論点抽出をするカフェを行います。次に、そこから得られた論点を整理する形で、専門家や市民など問題に関係する人々が一堂に会し、社会全体で議論すべきことを協働で決めていきま。最後に、その議論すべきことを、様々な人々へと還元していきます。このように、対称性を確保することによって、研究計画や政策決定を行ううえで、具体性、実行性が増すと考えています。